橋本病(慢性甲状腺炎)・
バセドウ病・
亜急性甲状腺炎・
無痛性甲状腺炎
橋本病
(慢性甲状腺炎)
橋本病(慢性甲状腺炎)は、心臓や肝臓、腎臓、脳など全身の臓器に作用して代謝を盛んにするなど、大切な作用を持つホルモンである甲状腺ホルモンが少なくなる病気(甲状腺機能低下症)の代表的な疾患です。
非常に頻度の高い病気で、成人女性の10人に1人、成人男性の40人に1人にみられます。そのうち、甲状腺機能低下症になるのは4〜5人に1人未満です。特に30~40代の女性に発症することが多いです。


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症状
首元にある甲状腺が腫れ、くびの圧迫感や違和感が生じることがあります。甲状腺機能が低下すると、無気力、疲れやすさ、全身のむくみ、寒がり、体重増加、便秘、かすれ声などが生じます。女性では月経過多になることがあります。うつ病や認知症と間違われることもあります。血液検査では、コレステロール高値や肝機能異常を認めることがあります。
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原因
自己免疫疾患の一つです。自己免疫疾患とは、本来は細菌やウィルスなどから体を守るための免疫が、自分の臓器・細胞を標的にしてしまうことで起きる病気の総称です。橋本病では、免疫の異常によって甲状腺に慢性的に炎症が生じていることから、慢性甲状腺炎とも呼ばれます。この慢性炎症によって甲状腺組織が少しずつ壊され、甲状腺ホルモンが作られにくくなると、甲状腺機能低下症が生じます。
なぜ免疫の異常が生じるかはわかっていません。橋本病を持っている人が、強いストレスや妊娠・出産、ヨード過剰摂取(海藻類、薬剤、造影剤など)等をきっかけとして甲状腺機能低下症を発症し、橋本病が明らかになるのではないかと考えられています。
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治療
甲状腺機能が正常の橋本病では、原則的に治療は必要ありません。甲状腺機能低下症がある場合は、合成T4製剤の内服を行います。
ヨード過剰が疑われる場合は、ヨード制限も行います。
潜在性甲状腺機能低下症の場合は、妊娠中あるいは妊娠希望の女性では速やかに甲状腺ホルモン補充を開始します。
甲状腺刺激ホルモン(TSH)が10µU/ml以上や、高コレステロール血症を伴う場合などでは、合成T4製剤の内服を検討します。
バセドウ病
甲状腺ホルモンは、全身の臓器に作用して代謝を司るなど大切な働きを持つホルモンです。
バセドウ病は、この甲状腺ホルモンを過剰に産生する病気(甲状腺機能亢進症)の代表的な病気です。

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症状
典型的には、動悸、体重減少、指の震え、暑がり、汗かきなどの症状がおきます。
その他、疲れやすい、軟便・下痢、筋力低下、精神的なイライラや落ち着きのなさが生じることもあります。女性では生理が止まることがあります。首元にある甲状腺は全体的に大きく腫れてきます。目がとび出たり目が完全に閉じないなど眼の症状が出ることもあります(バセドウ病眼症)。 -
原因
自己免疫疾患の一つです。自己免疫疾患とは、細菌やウィルスなどから体を守るための免疫が、自分の臓器・細胞を標的にしてしまうことで起きる病気の総称です。
バセドウ病は、TSH受容体自己抗体が作られ、甲状腺ホルモンを過剰に生産・分泌することによって起こる病気です。
TSH受容体自己抗体が作られる原因は分かっていませんが、バセドウ病になりやすい体質を持っている人が、何らかのウイルス感染や強いストレスや妊娠・出産などをきっかけとして起こるのではないかと考えられています。 -
治療
大きく分けて、薬物(抗甲状腺薬)治療、放射性ヨウ素内用療法、手術の3つの治療法があります。
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1薬物療法(当院で出来るのは薬物療法のみです)
薬物療法は、最も簡便で外来で治療が始められるため、多くの場合に第1選択となります。永続的な甲状腺機能低下症になることは滅多にありません。欠点として、副作用が生じる可能性があることや、治療効果に個人差が大きく、一旦寛解(症状が一時的にでても消えたり、安定して薬を中止できること)しても再発率が高いことなどが挙げられます。薬物療法を2年以上継続しても薬を中止できる目途が立たない場合は、他の治療法を検討します。
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2放射性ヨウ素内用療法
放射性ヨウ素内用療法は、安全で効果が確実であり、甲状腺の腫れも小さくなります。再発がないように甲状腺機能低下をめざすと甲状腺ホルモン薬の服用が必要になる場合があります。欠点としては、実施できる医療機関が限られていること、バセドウ病による眼の症状が悪化することがあること、小児や妊婦・授乳婦では行えないことなどが挙げられます。
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3甲状腺摘除術
甲状腺摘出術は、最も早く確実に治療効果が得られます。再発がないように全摘除を行うと甲状腺ホルモン薬の服用が必要になります。欠点としては、入院が必ず必要であること、手術痕が残ること、手術合併症(反回神経麻痺、副甲状腺機能低下症など)が生じるリスクがあることなどがあります。
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亜急性甲状腺炎・
無痛性甲状腺炎
亜急性甲状腺と無痛性甲状腺炎は、合わせて破壊性甲状腺炎といわれることがあります。
どちらも一時的に甲状腺ホルモンが上昇する病気です。

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亜急性甲状腺炎
甲状腺内に炎症がおき、甲状腺組織が壊れる病気です。そのため、甲状腺組織内に貯留されていた甲状腺ホルモンが血中に流れ出て、甲状腺ホルモンが上昇します。
感冒の後に続いて起こることがしばしばあり、ウイルス感染により生じる可能性があります。
なりやすい体質がありますので10〜30年後に再発することもあります。高熱や首の痛みがひどい人では生活に支障を生じるため、症状に応じて副腎皮質ホルモン(ステロイド)や抗炎症薬の投与が必要です。
ステロイドにより一晩で痛みや発熱が改善しますが薬を早く減らしたり、急に中止すると、ぶり返してしまうことがあるので、症状改善後は薬を徐々に減らし、中止します。甲状腺中毒症状が強いときは、βブロッカーなどを使用します。 -
無痛性甲状腺炎
慢性甲状腺炎などで甲状腺「ろ胞」構造の破壊がおこると「ろ胞」内のコロイドにサイログロブリンとして存在する甲状腺ホルモンは血中に放出されて遊離するため血中の甲状腺ホルモン濃度が高値になります。
甲状腺が徐々に壊れて痛みがないため、無痛性甲状腺炎と呼ばれています。多くの場合、血中甲状腺ホルモンは3か月以内に正常化します。一時的に甲状腺ホルモンは低下することがあります。この病気はバセドウ病が良くなっている方にもみられることがあります。また、出産後にもおこりやすく、何度か繰り返すことも少なくありません。